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Wednesday, July 28, 2021

<社説>ユネスコ決議 「遺憾」解消する説明を - 東京新聞

 日本の世界文化遺産に関する説明を巡り、国連機関が不十分だとして「強い遺憾」を表明した。日本政府は謙虚に耳を傾け、見直しを進めてほしい。

 軍艦島=写真=の愛称で知られる長崎県の端島(はしま)炭坑などの「明治日本の産業革命遺産」は、国連教育科学文化機関(ユネスコ)世界遺産委員会によって、世界文化遺産として登録された。

 これを受け、日本政府は昨年、「産業遺産情報センター」(東京都新宿区)を開設。遺産に関する情報発信を始めたが、展示内容に関する論議が絶えず、ユネスコは専門家による調査チームを日本に派遣し、報告書をまとめた。

 これを土台に出された決議は、徴用された朝鮮人労働者を巡る同センターの説明に不備があると結論付けた。例えば軍艦島についての展示は、中国や朝鮮半島から多くの労働者が動員されたと伝えているが、日本人からの差別はなかったなどとする元島民の証言を大きく紹介している。

 日本政府は当時支配下にあった朝鮮半島出身者は日本国民として「徴用」し「国際法に違反する強制労働ではない」と主張する。展示内容もこれを踏まえたものだ。

 しかし動員の合法性を主張する前に、言葉も十分通じないまま地下の深い場所で、長時間労働に従事した若者たちの気持ちを想起する必要があるのではないか。

 そもそも日本のユネスコ大使は登録に当たり、一部施設で過酷な条件下で労働させられていたことを理解できる措置を取ると表明していた。現状は、この約束を守っているとは言えまい。

 製鉄所や炭鉱といった近代の産業遺産には、強制労働などの「負の側面」が必ずある。そうした証言も集め、教訓として世界に向けて伝えることが、むしろ遺産としての価値を高めるはずだ。

 調査チームの報告書は、犠牲者を記憶するための展示や、当事国間の対話継続を求めている。日本政府は誠実に実行してほしい。

 情報センターの役割は、産業遺産の全体像を次世代に語り継ぐことだ。歴史や法律論争の場にしてはならない。

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