人口や産業などの行政データを有効に活用し政策効果を高めるため、長野県が全国の自治体では初めて、政策立案に人工知能(AI)を導入する試みに乗り出している。証拠に基づく政策立案(EBPM)が重視される時代になってきたためだ。ただ、判断を導き出した過程が不透明なAIでは説明責任を果たせず、行政の信頼性を確保できない可能性もある。行政とAIの共生は図れるのか――。
過去を引きずる
県がAIによる政策立案の研究に乗り出したのは、京都大学と日立製作所が開設した「日立未来課題探索共同研究部門」(日立京大ラボ)が17年、AIによる政策提言を実施したのに関心を持ち、県側から同ラボに持ち掛けたのがきっかけだ。
阿部守一知事は、政策立案にAIを関与させる意義について「人間の思考はどうしても過去を引きずっている。AIは情緒的ではなく機械的にやる。新しい可能性は、AIと人間が共同作業するところにある」と語る。
シミュレーションでは、2040年を視野に、持続可能な社会を実現する政策の方向性などをテーマとした。AIが判断材料にするデータは、若手県職員らが、県の総合5カ年計画(18〜22年)から人口や観光客数、県内総生産などのキーワードを抽出し因果関係を付与。そのうえで、原因により結果が発生する可能性の強さなど、全ての因果関係に係数を設け、データとした。
未来像は2万通り
AIが描き出した未来像は約2万通り。これを23通りに集約、分類し、この中から、県職員らの検討を経て最終的に6通りに絞り込んだ。最もよいシナリオは、観光が活発で生産・分配といった経済循環がよく、郷土愛も育まれていた。
最もよいシナリオも28〜29年ごろまでは、他のシナリオそれほど変わらなかった。この時期以降、持続可能な社会に向かった要因は、地方税の歳入割合や出生数、観光客数、公共交通機関の維持・確保などの政策効果が高いことだった。つまりこの時期までに行政が講じるべき政策の方向性を示唆したわけだ。
ただ阿部知事は「直ちに政策には生かせない」と指摘し、因果関係の精度を高めていく必要性を強調している。県は引き続き、今回のテーマで、より実効性のある政策立案の在り方を探る方針だ。
説明責任は
行政が講じる政策展開を巡り、現在、EBPMが重視されている。勘や経験などによる立案を排し、データに基づく因果関係を重視する考え方で、AIの果たす役割が期待されている。ただ、公平性や客観性が担保できる一方、全てをAIに任せると、講じた政策の説明責任を果たせない可能性がある。
今回の試みでは、データ抽出や因果関係などの最初の取り組みと、AIが導き出した複数のシナリオから採用すべき将来像を最終判断したのは県職員らであり、その中間作業のシミュレーションだけをAIに委ねた。阿部知事が「政策提言するのはあくまでも人間」と強調するのも、行政に求められる説明責任を自覚しているためだ。
行政が政策立案でAIを利用する試みはまだ緒に就いたばかり。試行錯誤の果てに、新たな行政の在り方に結び付くことが期待される。
【記者の独り言】 政策立案にAIを活用する長野県の試みは、自治体が講じる政策の実効性を高められるのか――。阿部守一知事が「新しい可能性は、AIと人間が共同作業するところにある」との認識を示したように、現時点ではあくまで「可能性」であり、克服すべき課題は山積している。
大切なのは、AIへの依存を限定的な形にし、人間が主体的に関与する仕組みを構築することである。民主主義下において、政策遂行の結果は、自治体が責任を負っている。県政トップである阿部知事には、そうした姿勢を堅持することを忘れないでもらいたい。その意味で、今回、AIに分析させるデータや得られた将来像を最終選択する作業を県職員らが担った手法は評価できる。
少子高齢化社会の到来で、行政サービスを必要とする高齢者らが増大する一方、働き手の職員は減少し、自治体が自らの責務を十分に果たせなくなりかねない事情も、AI活用の背景にある。
今後、シミュレーションの精度を向上させるため、データを不断に見直す作業が欠かせない。(松本浩史)
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