コロナ禍でスポーツ界は暗い影を落としているが、毎年恒例の冬の高校スポーツは、青春そのもので見る者を熱くする。
特に母校が出場していれば、その思いはまた格別だ。全国高校ラグビー大会でベスト4入りした大阪朝鮮高級学校である。
準決勝では前回大会王者の桐蔭学園に12-40で敗れたが、10大会ぶり3度目(第89回、第90回大会以来)の4強入り。初の決勝進出を阻まれたのは、すべて桐蔭学園という因縁もあった。
当時、花園で桐蔭学園と大阪朝鮮の試合を生で観戦したが、日本代表の松島幸太朗がずば抜けた身体能力で疾走する姿は今でも目に焼き付いている。今大会でも桐蔭学園は精鋭ぞろいのチームであることは、戦う前から分かっていたし、そう簡単に超えられる壁でもないだろう。
それでも母校のラグビー部の選手たちには夢を見させてもらった。格別な思いで試合を見ながら、年甲斐もなくテレビ画面の前で大声を張り上げていた。
筆者は高校時代、同校サッカー部の出身だが、グラウンドの半分はラグビー部が使用していた。
必死に練習する姿をこの目で見ていたこと、さらには、記者として全国高校ラグビー大会で同校を密着取材したことが思い入れの強い理由だ。
今は母校ラグビー部の現状に詳しいわけではない。筆をとること自体、おこがましいと思ったが、彼らが大会期間中に語っていた「スローガンは『使命』」の言葉を見てじっとしていられなかった。
存在が「小さい=弱い」ではない
MBSの全国高校ラグビー大会の公式サイトの大阪朝鮮のチーム紹介ページを見ると、現在の部員数は39人。3年生21人、2年生7人、1年生11人となっている。
そもそも在日コリアンが通う学校なので、身体能力の高い選手を集めてチームを作れるような状況でもない。中学からラグビーを始める経験者だけでなく、高校から始めるほぼ素人の選手も多い。
それでもなぜ全国大会で4強入りできるのか――。
YouTubeチャンネルの「RUGGERS」で昨年11月に同校の権晶秀(コン・ジョンス)監督がインタビューでこんなことを語っている。
「(人数が少ないことは)難しい環境にあると思いますが、それが自分たちの強みでありアイデンティティーです。少ないことを強みに変えて指導しています」
例えば、今大会決勝に進んだ桐蔭学園は102人、京都成章は123人。準決勝で敗れた東福岡は135人もいる。その数に比べると圧倒的に少ない。それなのに強豪校ぞろいの大阪で、花園行きを勝ち取り、全国ベスト4入りは奇跡に近い。
過去の取材メモを引っ張り出すと、呉英吉(オ・ヨンギル)前監督は部員が少ないことについて、こう話していた。
「初めて花園に出た時(第83回大会、2003年度)も少なかったので、数は元に戻ったと思って戦えばいいだけのことです」
つまり、選手の数が多かった時代というのは皆無で、少ないなかでもできることを継続してきた歴史があるということだ。
少数のメリットについても、権監督はYouTube「RUGGERS」でこう話していた。
「少なくていい面は練習がたくさんできることころ。人数が少なければ2時間から2時間半くらいで、密度の高い練習ができる。体力的にも強度を上げた練習ができる。一人一人に合った強みを生かした指導ができるし、目が届きやすい。自分たちは小さい存在なんだという認識。これはアイデンティティーと関わってくること。日本の中でも少数派だし、在日(コリアン)の中でも朝鮮学校に通ってラグビーをする子は少ない。例え存在が小さくても、弱いということはない。一方で存在が大きいから強いとかでもない。“小さい”というのを認識したうえで、その中でいかに強い相手、大きい相手に立ち向かっていくのか、勝つのかを自分自身も考えています。学生たちもそこを考えることで成長していくと思います」
自分たちの実力のなさを環境面のせいにすることはいくらでもできる。
それでも少ない部員の中で何ができるのかを探し続け、築き上げてきた伝統が大阪朝鮮高にはあると思う。
スローガン「使命」の意味
3回戦の秋田工業に勝利したあと、李錦寿(リ・クンス)は「今季のスローガンは『使命』。花園で活躍する姿を見てもらい、朝高でラグビーがしたいと思う子を増やさないといけない。全国制覇が使命です」と語っている。
彼らが言う“使命”の2文字の意味は、高校生が背負うには重く聞こえる。権監督の次の言葉にその答えが見える。
「現在の部員たちも先輩たちが花園に出る姿を見て、憧れを持ってラグビーを始めた子が多いので、君たちもそういう選手になりなさいと伝えています」
近年は少子化の影響や在日コリアンの生き方や価値観も変化している。中学まで朝鮮学校だが、高校は日本学校を選択する生徒も少なくない。
朝鮮学校の生徒数は減少傾向にあるなか、「『大阪朝鮮でラグビーがしたい』と思える後輩を増やす」という“使命”を高校生たちが背負っているのである。
それは決して重荷ではなく、彼らが同校ラグビー部で自然と先輩たちの背中を見ながら学んできたことなのだろう。
強いものに抗い、それを乗り越えていくメンタル。前へ進み続けるラグビーという競技が、彼らの強いアイデンティティーをより強く光らせているようにも感じる。
試合の中継で解説者も「朝高はメンタルが強いですから」と評価していた。
背負っているものが違うからこそ強い――。と言い切るのは大げさだろうか。
“在日ラグビーの父”が育んだ伝統
余談だが準決勝の中継で、権監督が戦況を見守る姿が映し出されたとき、隣の人が掲げていた見覚えのある人物の写真に目を奪われた。
それは“在日ラグビーの父”と言われる全源治(チョン・ウォンチ、故人)さんだった。
東京教育大(現筑波大)で主将を務め、のちに各地の朝鮮学校へのラグビーの普及に尽力した人物。37年間、朝鮮大学校ラグビー部の監督を務めた全さんからラグビーを学んだ学生は500人を超える。
2005年にインタビューしたときのことを今でもよく覚えている。当時聞いたのが「在日ラガーマンはみな全源治の息子であり、孫」という言葉。それも決して大げさではない話だ。
「まっすぐ走れ!」、「タックルせぇ!」、「気迫で負けるな」、「闘志を燃やせ」、「相手を恐れるな!」、「懐に低いタックルを決めろ!」と叩き込んだ。
朝鮮高ラグビー部のディフェンスとタックルの精神は、そうして今も受け継がれている。
「こんなに在日社会にラグビーが浸透していくなんて思ってもいなかった。みんな(在日は)サッカーしかしらないからな」と、大声で笑っていた。当時、71歳ながらもなおがっしりした体躯で、野太い笑い声が部屋中に響いていた。
今大会は、大阪朝鮮高ラグビー部の勇姿を天国からしわくちゃの優しい笑顔で見守っていたことだろう。
「もっとタックルせぇ!」と言いながら――。
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