携帯電話端末は、電波を使って基地局と交信をする。その電波の周波数帯(Band)は総務省が携帯電話事業者(キャリア)に割り当てている。
キャリアが販売する携帯電話電話端末は、自社で使っているBandに最適化されていることが一般的だ。ところが、他社で使っているBandに“意図的に”対応しないことで顧客間接的に顧客流出を防いでいるのではないかという声が一部で上がっている。
そんな声を受けてか、総務省では「競争ルールの検証に関するワーキングループ(WG)」の重要テーマの1つに「携帯電話端末における対応Band」を取り上げることになった。
4月11日に行われた競争ルールの検証に関するWGの第28回会合では、端末の“発売元”となることが多いキャリア4社(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイル)の4社からのヒアリング(意見聴取)が行われた。各社はどのような説明をしたのだろうか。
大前提:対応Bandの決定権は“メーカー”にある
日本国内で使われる無線機は、原則として電波法に基づく「技術基準適合証明」「工事設計認証」を取得するか「技術基準適合自己確認」を行う必要がある。その無線機で音声通話やデータ通信を行う場合は、電気通信事業法に基づく「技術基準適合認定」も取得する必要がある。これらはまとめて「技適など」と呼ばれており、「技適マーク」と一緒に証明(確認)/認定番号を表示することで日本において“合法的な”無線機として利用できるようになる。
これは海外でも同様で、ある国/地域を本拠として利用する無線機は、当該の国/地域における技適などに相当する証明/確認/認定を受ける必要がある。
ここでポイントとなるのが「無線機としての証明/確認/認定を取得する主体」である。携帯電話端末の場合は、端末を製造/輸入する事業者、つまりメーカーが証明/確認/認定を取得することが一般的である。
議論を進める上で、ごく一部の例外を除いて対応Bandに関する決定権は基本的にメーカーにあるということは念頭に置かなければならない。
対応Bandの決定にキャリアはどう関わっている?
先述の大前提を踏まえて、各キャリアは端末の対応Bandにどのように関わっているのだろうか。会合における各キャリアの説明を見てみよう。
NTTドコモ:Apple以外には「必須」「推奨」「任意」に分けて対応を要望
NTTドコモでは、自社が保有する5G/LTE(4G)ネットワークのBandについて「必須」「推奨」「任意」の3カテゴリーに分けて対応を要望しているという。そこから複数回の協議を経て、実装(対応)するBandを決定するとのことだ。他キャリアが利用するBandの実装については特に指示はしておらず、メーカーに任せているという。
自社ネットワークにおける「必須」「推奨」「任意」の内訳は「構成員限り」(※1)とされたが、対応状況を見る限り「必須」とされているのは以下のBandであると思われる。
- 5G:n78(3.7GHz帯)
- LTE:Band 1(2.0GHz帯)、Band 3(1.7GHz帯)、Band 19(800MHz帯)
なお、Appleの端末(iPhone、Apple WatchやiPad)については、ドコモが割り当てを受けているBandを情報として伝達しているだけのようで、実装するBandは協議なくAppleが決定しているようだ。
(※1)総務省に提出した資料は公開されることがが原則だが、経営秘密に相当する情報(資料)は一部または全部を非公開(構成員にのみ公開)とすることもできる
対応Bandの法規制(義務化)あるいは業界標準化が行われた場合の懸念点としては、主に「端末コストの上昇」「ボディーの大型化」といった商品性の低下だけを危惧する意見を述べている。
自社が販売する端末を他キャリアで販売した場合の情報提供について、ドコモは自社での告知だけでなく情報の一元化の必要性を提言している。総務省がWGの第26回会合の資料に盛り込んだ一覧表のようなものを同省の「携帯電話ポータルサイト」などに掲載したり、各キャリアのWebサイトからその情報へのリンクを設けたりすることを想定しているようだ。
KDDI:同社に割り当てられたBandについて対応を要望
KDDI(※2)では、同社に納入される端末について、同社に割り当てられたBandへの対応は依頼する一方で、他キャリアのBandに対応することは制限していないという。ただし、依頼の詳細は「構成員限り」となっている。
(※2)沖縄県を管轄する沖縄セルラー電話を含む(以下同)
対応Bandの法規制(義務化)あるいは業界標準化が行われた場合の懸念点としては、一般論として部材の調達、証明/確認/認定を取得するために必要な評価、申請手続きなど、端末の開発から製造に至るまでのコスト増を上げている。もしも何らかのルール化を行う場合は、端子メーカーの意向をよく確認してほしいとの注文もつけ加えた。
なお、KDDIの説明資料では一般論としてのコスト増については触れられているものの、端末の対応Bandがもたらしうる“利用者視点”から見たメリットとデメリットが「構成員限り」となっている。
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ソフトバンク:対応Bandはメーカーに任せているが詳細は非公開
先の2社と同様に、ソフトバンクも端末の対応Bandはメーカーに任せているという。ただし、対応Bandの決定までのプロセスは「構成員限り」となっており、詳細は分からない。対応Bandの法規制(義務化)あるいは業界標準化が行われた場合の懸念点も、端末に関わるコストの増大と先の2社とおおむね同じだ。
端末の対応Bandがもたらしうるユーザー目線のメリットとデメリットについては、利用できるエリアや通信品質に関する懸念をある程度解消できることをメリットとして挙げた一方、先述のコストを転嫁することによる端末価格の上昇をデメリットとして挙げた。
同社はさらに、対応Bandに関する法規制や業界標準化をキャリアが販売する端末にのみ適用した場合の“懸念”も指摘する。簡単にいえば、同じ機種でも販路によって対応Bandが異なる状況になったらユーザーがかえって混乱してしまうという懸念である。
そのことを含めて、ソフトバンクは端末メーカーの意見をよく聞いて議論を進めるように提案した。
楽天モバイル:販売シェアの高いメーカーへの義務付けは“アリ”との意見
楽天モバイルも、自社で販売する端末の対応の決定Bandはメーカーに任せているというが、詳細な見解は全て「構成員限り」とされている。
端末の対応Bandの法規制や業界標準化が行われた場合、同社は中小端末メーカーにおける開発コストの増大や開発スケジュールに大きく影響が出るという懸念を示す。一方で、一定のシェアを持っている端末メーカーには全てのキャリアの主要Bandに対応する義務を課すという方向性は“アリ”ではないかとの見解も示した。
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構成員からの質疑
各キャリアからの説明が終わった後、ワーキンググループの構成員からの意見表明や質疑応答が行われた。特に注目すべきやりとりを抜粋してお届けする。なお、分かりやすさを優先するために、やりとりの言い回しや順番を変更している部分もある。
対応Bandが増えると、どれだけコストが増えるの?
構成員A 「(国内で使われている)全周波数帯に対応すると端末のコストが上がるのではないか」という話がありました。サムスン電子が韓国では(韓国の)全周波数帯に対応する端末を出している一方で、日本ではそれぞれのキャリアに対応する端末を出していますが、端末のコスト面で本当に大きな差が出ているのでしょうか。総務省におかれましては、この点をよく調べていただきたいです。
構成員B サムスン電子の端末は、日本でも韓国でもオンラインショップでの価格が出ているので、為替レートの換算は必要でしょうが、幾つかの端末についてオンライン価格の比較だけでも検討いただきたいです。
事務局(総務省) オンライン価格の比較については調査を次回までにしたいと考えています。
大きな値引きができるなら、Band追加で増したコストを吸収できるのでは?
構成員C ソフトバンクの資料には、対応Bandを増やした際のデメリットとして「端末販売価格上昇の影響が懸念され、お客さまが低価格の端末を選択する機会を奪ってしまうことにつながる懸念がある」との記載があります。私の理解では、端末の大幅値引き(参考記事)をしても、端末販売での収支は確保(黒字化)できていると話していたかと思います。それであれば、(対応Bandの)共通化に伴う端末のコスト増も、相当に大きなものでなければ吸収できるのではないでしょうか。他国ではそれが実現できているようですので。
ソフトバンク 上昇するコスト次第だと思います。(対応Bandの追加によるコスト上昇が)どの程度になるのかは、我々には分かりません。おっしゃる通り、コスト増が極めて小さいのであればお客さまへの影響はないかもしれませんし、過大になってしまうのなら影響は出ると思います。いずれにしても「コスト次第」だと思います。
座長 この指摘は、先ほどのコストに関する調査のお願いともつながってくると思います。事務局(総務省)に対する大きな宿題になるでしょう。
Band単位のエリアマップも必要なのではないか?
構成員B 現状だと、(端末をそのまま使って)他社に乗り換えると、端末の対応Bandと基地局の使っているBandの組み合わせによってはつながらなくなることも考えられます。ドコモの提案のように、端末の対応Band情報を一元化して提供するのはもちろんですが、どのエリアでどのBandの電波が射出しているのか確認できるようにする必要もあるのではないでしょうか。ドコモさんは特定の周波数帯(※3)でのみエリア化している場所をマップでしっかりと確認できますが、他社はそうなっていないようです。特に地方にお住まいの人は困ると思うので、特定エリアにおけるBandの整備状況を出すことも検討してみてはいかがでしょうか。
(※3)ドコモのエリアマップでは、Xi(LTE)エリアのうちBand 19でのみ整備された場所を色分けして示している。Band 19非対応の端末の場合、Band 1(とBand 3)さえあれば、そのエリアを避けることで使える
KDDI エリアマップについては、お客さまに分かりやすい表示を心掛けています。ただ、他社における表示ポリシーが弊社ではどうなっているのか、再確認したいと思います。(Band別のエリアを)隠す意図はありませんが、キャリアによってエリアマップの表示ポリシーに異なる面もあります。(Band別のエリアマップが)良いのか悪いのかについて、丁寧な議論も必要かもしれないので、改めて確認したいと思います。
ソフトバンク ご指摘の通り、弊社は現在4G LTEのエリアマップを「4G LTE」としてしか出していません(Band別の表示は行っていない)。ネットワークの構成は(複数のBandで)複合的に作っている面もありますので、どういうことができるのか、今後検討したいと思います。
楽天モバイル 弊社では4G(LTE)が1.7GHz帯(Band 3)だけとなっております。そのため、特にだし分けはしておりません。パートナー回線として(KDDIと沖縄セルラー電話から)ローミングでお借りしているエリアに関しては区別できる形で表記しています。今後、ローミングが終了するエリアについては、対象地域にお住まいのお客さまに個別にご案内を差し上げている状況です。
次回は端末メーカーへのヒアリング 一部非公開の可能性も
競争ルールの検証に関するの次回会合は、4月下旬に開催される予定となっている。この会合では、MVNO(テレコムサービス協会 MVNO委員会)と端末メーカーからのヒアリングを実施される予定だが、出席する端末メーカーは調整中だという。
コストに関する情報は、経営上センシティブな情報でもある。出席自体をためらうメーカーもあるようで、総務省は会合の一部を非公開とすることで出席を促す方針を取るようだ。今回の議論において一番重要と考えられる端末メーカーの話は、公開されない可能性がある。
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関連リンク
からの記事と詳細 ( スマホの「対応Band」はどうやって決める? 大手キャリアが説明(1/3 ページ) - - ITmedia Mobile )
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