酒はひとを結び、まちを元気にする。酒場案内人の塩見なゆさんが、酒をテーマににぎわう各地のまちを訪ねます。今回やってきたのは福岡県うきは市。1893年に創業した「いそのさわ」が地域活性化の発信地となっています。なんと日本酒が飲み放題で、宿泊もできる酒蔵です。
福岡県で第3位の人口を誇り、世界的なタイヤメーカーや運動靴メーカーの創業の地として知られる工業都市、久留米。今回はそこからローカル線のJR久大本線に乗車してうきは駅まで、約40分の場所にあるうきは市を訪れました。久留米市は福岡市のベッドタウンでもあり、車窓からはマンションや戸建てが立ち並んでいるのが見えましたが、やがてのどかな田園風景に変わります。いよいよ筑後平野の東端の耳納山地(みのうさんち)が迫ってきたところで、列車はうきは駅に到着しました。
レトロな駅舎からまちに出ると、すぐ脇に浮羽森林組合の事務所がありました。うきはが林業の町であることを実感します。駅前に目立った商店は少なく、かつての商店街だったと思われる道を数分歩くと酒蔵が見えてきました。
酒蔵の名前は「いそのさわ」。1893年に創業しました。いま、歴史あるこの酒蔵がこれまでにない斬新な取り組みで地域活性化に取り組んでいます。
出迎えてくれたのは、代表取締役の中川次郎(なかがわ・じろう)さん。約20年間、福岡の広告代理店を経営していた人で、もともと蔵元だったわけではありません。いそのさわとの接点は、中川さんが2005年から行っていた古民家再生事業について、いそのさわの創業家の前社長から相談を受けたことから始まりました。酒蔵の敷地内には明治26(1893)年に建てられた蔵元の母屋があり、かつては住居として使用されていたものの長年未使用のままになっていました。これをリノベーションしたいという話がきっかけだったそうです。
計画を進めていたさなか、いそのさわに大きな変化が起こりました。飲酒シーンの多様化による日本酒離れ、コロナ禍による酒類提供規制などの影響を大きく受け、いそのさわは経営の継続が困難になったのです。今後のいそのさわをどうすべきか、銀行との話し合いが行われた席に、中川さんも同席していました。
いそのさわはうきは市唯一の酒蔵で、130年の歴史があります。地域活性化の発信地としての役割も期待されていることから、2021年から新たな法人が経営を引き継ぐことが決まり、酒造免許も新たに交付されることとなったのです。
「そこで社長に任命されたのが私でした」と中川さんは振り返ります。
中川さんは以前からお酒を飲むことが好きだったそうです。前社長の頃から力を入れていた銘柄「駿(しゅん)」は引き続き、いそのさわの主力商品として製造が続けられています。瓶内2次発酵のスパークリング日本酒や、焼酎ベースのサワーづくりなど、酒類のラインアップは守りではなく攻めていく方針とのこと。一大消費地である福岡が近いという地の利も生かす戦略です。
「杜氏さんをはじめ、これまでいそのさわで働いていた皆さんが新体制でも丁寧な酒づくりを続けてくれています。良い酒をつくることに加えて、私は新たな価値を提供し、売り上げを上げていかなくてはなりません。その柱となるのが、母屋を改装した宿泊施設の運営でした」と中川さんは言います。
新たなお酒の開発に積極的に動いてくれる杜氏の渡辺貞夫(わたなべ・さだお)さんと、新たなビジネスを生み出していく中川さんの両輪が、いそのさわを大きく変化させています。
からの記事と詳細 ( 日本酒飲み放題で宿泊もできる酒蔵:福岡県うきは市「いそのさわ」 - project.nikkeibp.co.jp )
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