株式会社リコーは3日、デジタルサービス事業に関する成長戦略について説明した。2022年度第1四半期業績発表のなかで時間を割いて説明したもので、中小企業向けのスクラムパッケージでは、電帳法対応やインボイス制度対応、基幹業務改善に対応した24シナリオを新たに用意。2022年秋に投入を予定しているリコーブランド版kintoneとスクラムシリーズとの組み合わせ提案も加速する考えを示した。また、PFUのスキャナーを活用したスクラムパッケージを投入する計画も明らかにしている。
リコー リコーデジタルサービスビジネスユニット デジタルサービス事業部長の八條隆浩氏は、「リコーには、インボイス制度に対応するために、基幹業務をバージョンアップしなくてはならない顧客企業が約7000社ある。これらの顧客に提案し、2023年10月までに取り込んでいくことになる」と述べた。
なお、7月1日に予定していたPFUの買収完了が遅れていることについては、「海外の規制当局の承認はパスしたが、日本の公正取引委員会の調査が長引いており、これが8月半ばごろに承認をもらえると考えている。9月1日には最終契約にこぎつけられるだろう。PFUや富士通、リコーの間にトラブルがあったわけではない。むしろ、2カ月間という時間をもらったことで、買収を検討するチームだけでなく、各部門から選出された社員による分科会における議論が進んでいる。PFUの資産の生かし方を含めて準備ができている」(リコー コーポレート執行役員兼CFOの川口俊氏)と説明した。
リコーは、中長期目標として、OAメーカーから、デジタルサービスの会社に変革する方針を打ち出しており、オフィスや現場において、手作業などで行われている業種業務ごとの固有ワークフローをデジタル化し、つなぐことで、自動化や省人化などによって生産性の向上を実現。さらに、オフィスや自宅、現場などがデジタルでつながることで、「現場とオフィスの間」「ITで行う業務と業務の間」「外部企業との間」「オフィスとホームの間」に介在する課題を解決し、時間や場所にとらわれない新しい働き方をデジタルサービスとして提案するという。
デジタルサービスでは、中核となるオフィスサービスにおいて、中小企業を対象にしたスクラムパッケージや、中堅企業向けのスクラムアセットを展開。さらに、2022年4月に発表したPFUの子会社化や、サイボウズとの業務提携、欧州市場を中心にした買収戦略による事業成長などが成長戦略の軸になっている。
2022年度第1四半期(2022年4月~6月)におけるスクラムパッケージの売上高は前年同期比15%減の94億円、販売本数では同7%減の1万7344本となったが、中堅企業向けのスクラムアセットでは、売上高が同108%増の60億円と倍増。スクラムシリーズ全体では、売上高は同10%増の155億円となった。
「PCやサーバー、ルータなどのICT商材が不足しており、スクラムパッケージの提案に遅れが出ている。だが、そのなかでもセキュリティは好調であり、電帳法対応の新規サービスについても堅調に進んでいる。また、スクラムアセットはシステム導入後の運用代行、仮想化集約、セキュリティ関連を中心に好調な実績になっている」(川口CFO)という。
また、欧州において買収した企業とのシナジー創出が引き続き堅調であり、2022年1月に買収したAxon Ivyによるローコード開発アプリケーションをリコーの顧客へと展開をスタート。独自の「Leading Change at Work(LCAW)キャンペーン」が順調に立ち上がり、案件の開拓が順調に推移して、3000万ユーロの受注実績を獲得したという。さらにリスキリングの取り組みにより、エンジニアをCEからSEにシフト。米国では、セキュリティ対策ITサービスが好調に推移。医療、金融、小売の大手企業向け3業種を重点化し、ポートフォリオの強化を図るという。
デジタルサービスの成長戦略について説明した八條デジタルサービス事業部長は、「日本においては3つの施策を推進し、顧客ニーズの高い領域でソリューションを展開していく」とした。
ひとつめが「スクラムシリーズの勝ち筋への注力」である。
「第1四半期におけるスクラムパッケージの販売実績は、ICT商材の品不足が影響して前年割れとなったが、セキュリティは前年同期比2桁成長となっている。特に好調なのが、ICT商材に非依存型のクラウド型セキュリティSaaSアプリケーションを活用したパッケージである。ニーズが高い領域であるというだけでなく、シナリオに加えて、セールスマンやサービスマンに対する教育を徹底的に実施した効果がある。受注は継続的に進んでおり、第2四半期もこれを継続して成長させることになる」とした。
また、第2四半期からの新たな取り組みとして、バックオフィスにおけるソリューション強化を進めるという。具体的には、電帳法対応やインボイス制度対応、基幹業務改善といった法改正に伴うニーズへの対応を図るという。ここでは、電帳法対応で8シナリオ、インボイス制度対応で5シナリオ、基幹業務改善で11シナリオの合計24シナリオを用意。さらに、リコーの請求管理クラウドサービスである「MakeLeaps(メイクリープス)」とのセット提案も推進するとしている。
「ニーズの追い風、24シナリオによる提案、IT補助金制度の活用によって、さらなる加速を進める。また、基幹業務の基礎や新制度の中身をはじめ、これらの分野に関わる26種類の社員向け教育コンテンツを用意し、展開を加速させる」。
2つめが、2022年秋に投入を予定している「リコーブランド版kintone(仮称)による事業拡大」だ。
「リコーブランド版kintoneは、2022年秋の投入に向けて、順調に準備が進んでいる。Kintoneに関しては、提携前からスクラムアセットにおいて、顧客管理、受注管理など16種類のアセットモデルを用意している。今後は、Kintoneを活用したスクラムパッケージの品ぞろえも計画している」とした。
また、「リコーブランド版kintoneは、RSI(Ricoh Smart Integration)プラットフォーム上で稼働することになり、ドキュメント関連アプリケーションをつなぐなど、開発済みのマイクロモジュールをそのまま利用し、Kintoneのオリジナルプラグインアプリケーションと組み合わせて販売することができる。スクラムシリーズとリコーブランド版kintoneの組み合わせは、今後、成長が期待できる分野であり、2025年度にはグローバルで売上高500億円のビジネス創出を目指す」と述べた。
3つめは、「PFUとの連携による強化」である。PFUが持つマネージドITサービスのラインアップの活用や、PFUのセキュリティオペレーティングセンターなどのケーパビリティの活用、PFUの強みであるスキャナーなどのエッジデバイスを活用した業種業務デジタルサービスへの拡張などを計画しているという。
「すでに、リコージャパンが持つマネージドITサービスとの連携を図っている。これを強化し、リコージャパンブランドでPFUのマネージドITサービスを販売していく。また、PFUのセキュリティオペレーティングセンターの強みに、リコージャパンが持つ営業力の強みを組み合わせた活動も行う」という。
さらに、「新たにPFUのスキャナーを活用したスクラムパッケージモデルも投入していく予定だ。免許証やIDといったプラスチックが素材のもの、冊子化されたパスポートやお薬手帳などの読み取りに、PFUのスキャナーは適している。これらを認証の入り口とし、手書きOCR帳票と組み合わせた業務提案を、さまざまなところに展開できる。ワークフローのデジタル化につなげることができる」などと述べた。
一方、デジタルサービスにおける海外での展開では、欧州で買収したソリューション会社や販売会社が着実に業績を拡大しており、今年度も引き続き買収を実行していく姿勢を強調した。
2022年6月には、英pure AVと北欧のAVC、2社のAVインテグレータの買収を完了。「リコーが、大手企業を中心にグローバルで展開し、2桁成長を遂げているW C&C(Workplace Communication & Collaboration)戦略を進めるための基盤の強化につながる」と位置づけた。2022年1月に買収したスイスのAxon Ivyも、欧州の大手顧客への販売を開始。今後は、Axon Ivyのソリューションをリコー社内で活用していく考えも示した。
また、米州への展開では、「日本、欧州に比べると、デジタルサービスの展開が遅れているが、顧客基盤が大手企業であり、マネージドサービスによるデジタル化の推進など、顧客との結びつきが強いビジネスを展開している。この顧客基盤を生かしたデジタルサービスの事例が生まれている。重点業種とする医療、金融、小売に特化した専任担当者を前線に配置することで、事業の拡大を目指す」とした。
さらに、「北米市場では、ITサービス、コミュニケーションサービス、アプリケーションサービスにまたがる形で戦略投資ソーシングを展開中であり、さらなる成長に向けた投資を行っていく」と語った。
リコーグループの2022年度第1四半期連結業績
なお、リコーグループの2022年度第1四半期(2022年4月~6月)連結業績は、売上高が前年同期比8.1%増の4593億円、営業利益が69.9%増の96億円、税引前利益は45.8%増の112億円、当期純利益は58.6%増の75億円となった。
リコーの川口CFOは、「全ビジネスユニットで増収増益を達成した。営業利益は、為替や一過性要因などを除いた実質値では、想定内の進捗となった。また、部材不足や上海ロックダウンといった外部要因に対し、柔軟な調達、生産施策で対応した」と総括した。
上海ロックダウンの影響などの外部要因で、約40億円のマイナス影響があったという。
セグメント別では、リコーデジタルサービスは、売上高が前年同期比6.4%増の3685億円、営業利益は15億円増の29億円。リコーデジタルプロダクツは、売上高が前年同期比11.1%増の994億円、営業利益は32億円増の122億円。
「オフィスプリンティングのハードウェアは、上海ロックダウンの影響があったものの、生産状況は6月から回復している。原材料や海上輸送費などによる原価押し上げ分はコスト改善の努力とともに、市場への価格転嫁で吸収している。今後、供給量回復に伴い、市場の需要に応えたい。ノンハードの売上高は全体では想定内だが、日本ではやや下回っている。またオフィスサービスは、日本を中心にICT商材不足の影響が継続しているが、次の事業成長に向けた施策は着実に進捗している。欧州では成長投資を継続し、その効果を追求。日本では第2四半期以降でのリカバリーを計画している」と述べた。
なお、オフィスサービスの売上高は前年同期比6.2%増の1418億円。そのうち、ハードウェアとソフトウェアで構成されるITサービスは前年同期比6.3%減の498億円。前年同期にはGIGAスクール構想の上乗せ分が40~50億円あった反動を受けた。また、メンテナンスやアウトソーシングのITサービスは前年同期比12.6%増の315億円、業種業務アプリケーションや自社アプリケーションのアプリケーションは前年同期比10.5%増の259億円、顧客出力センターの受託などのBPSは前年同期比20.6%増の283億円となった。オフィスサービスでは、ITサービス以外のカテゴリーは高い成長を遂げている。
「リコーグループ全体では、全体世界で400~500億円の受注残がある。そのうちオフィスサービスでは3分の1程度を占める。セキュリティや電帳法対応などに対するニーズが高い。モノが整えば、数字が出てくると見ている」とした。
このほか、リコーグラフィックコミュニケーションズは、売上高が前年同期比22.0%増の518億円、営業利益は前年同期から14億円増の24億円。リコーインダストリアルソリューションズは、売上高が前年同期比11.9%増の320億円、営業利益は前年同期から2億円改善したものの、マイナス7億円の赤字となった。
その他分野は、売上高が前年同期比0.5%減の84億円、営業損失は前年同期から2億円改善したが、マイナス30億円の赤字となった。
一方、2022年度通期業績見通しは据え置き、売上高は前年比16.6%増の2兆500億円、営業利益が同124.7%増の900億円、税引前利益が同111.8%増の940億円、当期純利益が同107.4%増の630億円を目指す。
「為替や一過性の影響もあったが、第1四半期は想定内に進んでいる。モノをしっかり作り、モノをしっかりと販売現場でさばいていく。第2四半期以降、計画を達成できる行動ができると考えている。品不足が続くICT商材についても、9月以降は通常に戻ると想定している。日本におけるスクラムパッケージの販売も元の形に戻していける。ICT商材に頼らないスクラムパッケージのラインアップ強化を今後、考えていくことになる」などと述べた。
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