首位のFC町田ゼルビアとの国立天王山。一時は2点ビハインドにまで追い込まれた東京ヴェルディだったが、再レンタル初陣の若きストライカーがチームを救った。ヘディングでの2ゴールで同点に導いたFW染野唯月は試合後、「ゴールを一番意識していたので、まずは決められてホッとしている」と控えめに喜びを語った。
鹿島アントラーズ所属の染野は今月4日、昨季後半戦に続いて東京Vに育成型期限付き移籍することが発表され、再びJ2リーグを戦うことが決まった。鹿島でもJ1リーグ戦5試合に出場した他、カップ戦では4試合2ゴールを記録。一定の戦力にはなっていたものの、さらなる成長を志しての決断だった。
すると加入初陣のこの日、染野は国立競技場で行われた町田との首位決戦で先発出場し、さっそく違いを見せつけた。0-2で迎えた後半28分、右からのクロスを巧みなヘディングでねじ込むと、同38分にも左サイドからの折り返しが跳ね上がったところを頭で押し込み、同点に導く2ゴールという大活躍。J1自動昇格を狙うチームに貴重な勝ち点1をもたらした。
染野は1点目について、クロスを送ったDF宮原和也の貢献を立てて「いいボールがあってこそのゴールだった」と振り返り、2点目も折り返しのパスを配球したMF新井悠太に「悠太が絶対にドリブルで抜いてくれる、相手をかわしてくれると思っていたので、相手との駆け引きに勝てた」と感謝を口にした。だが、いずれもゴールにつながったのは染野の決定力があったからこそ。加入初陣で自身の存在価値を証明してみせた。
2ゴールにつながった要因には、プレーエリアが低く良さを出せなかった前半から後半への修正があったという。染野は「自分はゴール前で生きていく選手なので、ゴール前に入っていかないといけない。後半はそういうところを意識していたけど、前半は落ち過ぎた部分があった。もっともっと自分の良さ、ゴール前の仕事をできるように後半のような仕事をもっと前半からできればよかった」と反省気味に語った。
そんな染野の大活躍には、町田の黒田剛監督も目を見張るしかなかった。黒田監督が青森山田高を率いていた2018年度、染野は尚志高のエースとして全国高校選手権準決勝でハットトリックを記録。青森山田がPK戦で勝利したが、染野も“青森山田キラー”として恐れられる存在となった。また19年の高円宮杯プレミアリーグでも2ゴールを記録。この日は互いにプロとして初対戦となったが、またも名将に立ちはだかった。
黒田監督は試合後の会見で「高校の時に埼スタで彼に3点取られた準決勝も覚えているし、山中(真)コーチも(柏U-18監督時代の)プレミアリーグで3点取られていて、2人で6点も取られているんだなという話をしていた」と苦笑い気味に振り返りつつ、「彼の怖さはわれわれのほうがわかっていた。彼は一発を決める能力もあるし、ヘディングの技術がある。ずっとハードワークするわけではないんでしょうが、一瞬で決め切る力を持っている点ですごい能力を感じている。やっぱり決められたなという印象。ミスもあったが、決め切る彼の力があったなと思っている」と手放しで賞賛していた。
もっとも、染野自身はこの日の活躍を冷静に受け止めていた。「チャンスはもっともっとあったので決め切らないといけなかった」とゴールシーン以外の決定機を振り返つつ、ドローという結果には満足せず。「(自分のゴールで)引き分けにできた部分はあったけど、チームとしては勝てた試合だったので、そこで勝ちきれなかった前半のミスも含めて改善していければと思う」とさらなる成長を誓った。
(取材・文 竹内達也)
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