憲法解釈の変更によって集団的自衛権の行使を解禁し、自衛隊の任務を大幅に拡大した安全保障関連法が、2016年の施行から29日で5年になった。
この間、集団的自衛権の行使につながる活動はなかったが、自衛隊が米軍の艦艇などを平時から守る「武器等防護」は増え続け、自衛隊と米軍の運用の一体化が常態化している。軍備拡張を続ける中国を封じ込めるため、連携強化の相手をオーストラリアや欧州の国々へと拡大する動きもある。
だが、日本への武力行使がなくても集団的自衛権の行使を認める安保法は、憲法に違反しているとの指摘もある。安保法の運用実績も国民に十分説明されているとは言い難い。憲法を巡る議論と国民への説明を置き去りにしたまま、なし崩しで自衛隊の活動が拡大されている状況は改めるべきだ。
安倍前政権は、戦争放棄を定めた憲法9条の下で「保有するものの行使はできない」とされてきた集団的自衛権の解釈を変更。密接な関係にある他国が攻撃を受け日本の存立が脅かされる「存立危機事態」の際は行使できるとした。
歴代政権が守ってきた解釈を変更するため、変更に前向きな外務官僚を内閣法制局長官に起用。本来は憲法改正の議論が必要なところを閣議決定で済ませた。与党も世論が真っ二つに割れる中で採決を強行し、安保法を成立させた。
安保法の施行後、特に増えているのが武器等防護だ。19年は14件、20年は過去最多の25件に上る。自衛隊幹部は「米軍を守るという行動を示せるようになり、同盟の強化につながった」と強調している。しかし、任務の具体的な内容については「米軍の部隊運用に直結する」として公表していない。安倍晋三前首相は法案審議で「最大限情報を開示し、丁寧に説明する」と約束したが、実際には限定的な説明にとどまっている。
国連平和維持活動(PKO)の最中に襲われた他国の要員を助ける「駆け付け警護」や、他国軍との「宿営地の共同防護」も自衛隊の新たな任務となった。これらが実際に行われる際、防衛省や自衛隊が国民への説明を徹底できるかも気掛かりだ。
安保法は違憲だとする訴訟も各地で続いている。これまでの判決では請求は退けられているが、憲法学者の間には依然として違憲との見解がある。
日本周辺の安保環境は確かに厳しくなっている。中国の軍事的台頭に一国で対抗するのは難しい。北朝鮮も核・ミサイル開発を進める。とはいえ、米軍とどこまで行動を共にするかは慎重な議論が必要だ。バイデン政権が同盟強化と引き換えに軍事的な負担増を求める可能性もある。
前政権は専門家の指摘を軽んじ、法や憲法を無視する前例を作った。菅政権にも同様の傾向がうかがえるが、それでは国民の信頼は確保できまい。活動拡大ありきでなく、国益につながるかを丁寧に見極めながら安保政策を練り上げてもらいたい。
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