新型コロナワクチンを職場単位で打つ「職域接種」の申し込みが休止になった。申請が相次ぎ、この接種向けに確保したモデルナ社製ワクチンの量の上限に達したためという。
多くの職場が積極的に取り組みを進めた結果であり、それ自体が悪いことではない。ワクチンの総量や輸送能力に限りがあるのも事実だ。
とはいえ、職域接種の正式開始から1週間も経っておらず、申請はこれからだった企業も多い。政府のかけ声に応えて準備や検討を進めていた企業や団体からすれば、尻をたたかれたうえで、はしごを外されたかたちだろう。突然の休止に戸惑いが広がるのは当然だ。
国内での接種は、量や医療資源の制約を念頭に、医療従事者や高齢者らからという優先順位をつけ、まず自治体単位で進めた。輸入量が安定した後は、接種加速に向け「打ち手」になる医師らの確保が課題になった。
職域接種はその一環として、企業の産業医や健康管理の仕組みを活用する試みだったといえる。それゆえ、接種体制をつくれるところから、という「早い者勝ち」も正当化された。
しかし、再び供給量の制約で接種希望がかなわなくなれば、それまでの配分の公平性が意識されてくる。接種拡大で集団免疫に近づく恩恵は社会全体にも及ぶが、接種を受けた個人や集団の利益もあるからだ。
体制の充実した大企業の接種が先行する一方で、飲食などの対面労働も含む中小企業での共同接種などが取り残されれば、不公平感が広がりかねない。
ワクチン担当の河野太郎行革担当相は、きのうの会見で「ご迷惑をおかけしていることをおわび申し上げたい」と述べた。個々の申込量を精査し、場合によっては配分量や配送時期の変更もありうるという。
いずれにしても、十分に丁寧な説明をすることが不可欠だ。接種加速に協力しようとした人々に負担をかけたり、士気をそいだりすれば、本末転倒だ。
自治体の接種でも、使用しているファイザー社製ワクチンの配分が7月以降急減する懸念があり、モデルナ社製の使用を期待する声が出ていた。政府は、今後の各種ワクチンの供給量や具体的配分の見通しなど、全体像や注意点を随時迅速に示すことが求められる。
出だしで曲折した職域接種ではあるが、配分を受けた企業は、接種体制に万全を期してほしい。本人の意思の尊重や副反応時の対応はもちろん、職場内での公平性の確保や、接種の有無などの個人情報の適正な管理といった基本を徹底する必要がある。
からの記事と詳細 ( (社説)職域接種 状況の変化 十分説明を:朝日新聞デジタル - 朝日新聞デジタル )
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